【BMW車“豚鼻グリル”の巨大化】炎上デザインに隠れたブランド戦略

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BMWのフロントマスクを象徴する「キドニーグリル」。近年はモデルによって大幅に大型化し、日本ではその姿を“豚鼻”と表現されることもあります。特に2020年に登場した4シリーズの縦長グリルは、それまでのBMWとは明らかに異なる印象を与えました。しかし、これは単なる奇抜さを狙ったものではありません。BMWにとってキドニーグリルは1930年代から続く重要なブランド記号であり、電動化によって冷却口としての役割が薄れた現在も、むしろ存在感を強めています。なぜここまで大きくなったのか、その背景をデザイン史とブランド戦略から考えていきます。

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「豚鼻」はBMWの個性を強めるための大胆デザイン

正体は大型化したキドニーグリル

いわゆるBMWの“豚鼻”の正体は、左右二分割された「キドニーグリル」です。その歴史は古く、BMW 303が登場した1933年に、現在へつながる腎臓型のラジエーターグリルが初めて採用されました。BMWは、この形状をブランドを遠くからでも識別できる代表的なデザイン要素として扱ってきました。つまり、大型グリルは突然生まれた奇抜な飾りではなく、約90年続く意匠を意図的に強調したものなのです。

ダサい派/かっこいい派で評価が割れる理由

賛否が生まれやすい理由は従来型との変化量が非常に大きいからです。2020年の4シリーズでは、BMW自身が「縦方向に強調されたキドニーグリル」を独立したデザインの核として説明し、フロントから見た際に大胆で自信のあるアイデンティティを表現するとしています。

このデザインは万人受けとは正反対の戦略だと感じます。駐車場で多数のクルマが並んでいても、一瞬でBMWだと分かる。美しいかどうか以前に、記憶へ残る力が強烈なのです。商品デザインとして考えれば、嫌われることより「何のクルマか分からない」ことの方が危険な場合があります。巨大キドニーは好みを二分する一方、BMWというブランドを視覚的に強く主張する武器になったと考えられます。

キドニーグリルはどう変化してきた?

細く上品なグリルから大型・縦長デザインへ進化

BMWのキドニーグリルは常に同じ形だったわけではありません。1933年の303では縦長の左右2分割形状でした。その後、時代や車種によって縦長、細身、横長などさまざまな形へ変化しています。BMW自身も1933年以来、キドニーの機能や形状は継続的に変化してきたと説明しています。

そのため、昔のBMWを知る人がイメージする「横に細いキドニー」だけが伝統的な形というわけではありません。むしろ初期BMWには、現代の4シリーズを思わせる縦方向へ長いグリルも存在しました。BMW Concept 4でも、デザイナーは大型の縦長グリルを過去のBMWクーペの歴史と結び付けて説明しています。

4シリーズや7シリーズで“豚鼻感”が強くなった

変化を決定的に印象付けたのが2代目4シリーズです。細いヘッドライトに対してキドニーを大きく縦へ伸ばし、フロントマスクの主役そのものにしました。一方、7シリーズでもグリルを中心とした強いフロント表現が進みました。2026年に発表された最新改良型7シリーズでは、Iconic Glow付きキドニーを採用しながら、従来よりスリムで縦方向を強調した形へ再構成されています。

つまりBMWのデザインは単純に「年々鼻が大きくなっている」のではありません。巨大化した時期を経て、現在はグリル、ライト、発光表現を一つの顔として再整理する段階へ入っています。

なぜ大型化した?BMWの狙い

ブランドの存在感と高級感を強めるため

BMW自身の説明で一貫しているのはキドニーグリルがブランドを識別させる重要な要素だということです。2014年の公式資料でも、キドニーと特徴的なライトによってエンブレムが見えなくてもBMWだと識別できると説明されています。

4シリーズでは大型縦長グリルによって「大胆で自信のあるアイデンティティ」を狙い、2026年型7シリーズでもグリルとライトによって強い存在感と明確なブランド識別性を表現しています。つまり大型化の重要な目的は、冷却性能だけではなく「遠くから見てもBMW」と分からせる視覚的な存在感だと読み取れます。

中国市場などで好まれる迫力あるデザインへの対応

ここは注意が必要です。「中国人が大型グリルを好むからBMWが巨大化させた」と断定できるBMW公式資料は確認できません。確かなのはBMWが中国市場向けに車両を積極的に専用化していることです。中国専用5シリーズ/i5では、BMW自身がアップライトなフロントと発光するグリルによる「自信のある存在感」を強調しています。また2026年には中国専用のロングホイールベース版iX3やi3も発表されています。

したがって、中国を含む重要市場の嗜好を商品開発へ反映していることは確認できますが、「巨大キドニー=中国市場だけが原因」と説明するのは単純化しすぎでしょう。

EV時代にグリルが“冷却部品”から“ブランド表現”へ変わった

大型グリルを理解するうえで最も面白いのが電動化です。BMW Concept i4では、内燃機関ほど冷却を必要としないため、閉じたキドニー部分を各種センサーを収める「インテリジェンス・パネル」として利用すると説明されました。iXでもカメラやレーダーなどがグリル内部へ組み込まれています。

つまりEV時代のキドニーは単なる空気の入口ではありません。BMWというブランドを示し、センサーを隠し、場合によっては光る。鼻というより「顔のディスプレイ」へ進化しているのです。

「ダサい」と言われても評価される理由

SNSでネタ化され、悪目立ちした面がある

巨大キドニーは従来のBMWと比較して変化が大きいため、ネット上では“豚鼻”など強い言葉で語られやすいデザインです。ただし、インターネット上の賛否をBMW車全体の客観的評価として扱うことはできません。重要なのはBMW自身が控えめにするどころか、4シリーズで縦長グリルを「明確なステートメント」として採用したことです。

ここにBMWの割り切りを感じます。全員から70点をもらう顔より、「これはBMWだ」と100m先から分かる顔。万人受けを少し犠牲にしてでも個性を取ったデザインと見ると、巨大化の狙いが理解しやすくなります。

一方で、迫力・個性・高級感を支持する声もある

デザインの好みそのものを数値で断定することはできませんが、BMWが現在もキドニーをモデルごとのキャラクター作りに積極利用している事実は明確です。5シリーズにはグリル外周を発光させるIconic Glowが設定され、X5・X6などにも発光するキドニーが採用されています。

つまりBMW自身は、グリルを隠す方向ではなく、夜間までブランドを認識させる方向へ進めています。

レクサスやアウディなど大型グリル化は高級車全体の流れ

BMWだけがフロントグリルを強調してきたわけでもありません。アウディは長年「Singleframe」をブランドの顔として用い、A7では幅広く低いグリルをフロントデザインの中心へ配置しています。EVのQ8 e-tronでは、ほぼ閉じたSingleframeであってもデザイン上の重要な識別要素として残されています。

高級車では機能以上に「一目でブランドを識別できる顔」が重要になっています。BMWの巨大キドニーは極端に見えますが、ブランド固有のフロントフェイスを強調するという考え方自体は、プレミアムカー全体で見られる流れといえるでしょう。

今後のBMWデザインはどうなる?

光るグリルなど演出重視の方向へ進化

2026年時点でBMWのデザインを見ると、「さらに巨大化する」という単純な方向ではありません。Neue Klasseでは、キドニーグリルと4灯をイメージしたライトを一体化し、光と立体形状によってBMWの顔を再構築しています。BMW Vision Neue Klasseではグリルとライトを一つのインタラクション領域として扱い、Vision Neue Klasse Xではバックライト付きの立体的なキドニーを採用しました。

2026年の新型i3でも、キドニーと4眼を示すライトシグネチャーを一つの「geometry-and-light element」としてまとめています。さらに同年発表の新型7シリーズではIconic Glowグリルを標準採用し、形そのものは従来よりスリムで縦長に整理されました。これは非常に興味深い変化です。BMWの「鼻」は大きさを競う段階から、形、光、センサーを組み合わせて存在感を作る段階へ移りつつあります。

豚鼻デザインは賛否込みでBMWの記憶に残る武器

巨大キドニーは確かに好き嫌いが分かれます。しかし、自動車デザインで最も難しいのは、誰にも嫌われないことより、長期間にわたりブランドらしさを維持することかもしれません。BMWは1933年の303から90年以上、形を変えながら2分割キドニーを守ってきました。

4シリーズではそれを大胆に縦へ伸ばし、iXではセンサーを収め、7シリーズでは光らせ、Neue Klasseではライトと一体化する。役割は変わっても、「2つの腎臓」という基本記号そのものは消えていません。

ここにBMWのブランド戦略の巧さがあると考えます。“豚鼻”と呼ばれて話題になるほど強烈でも、一目でBMWだと分かる。その賛否すら、結果的にはブランドの記憶を強くする要素です。今後は巨大さそのものよりも、「BMWの顔をどう光らせ、どうデジタル化するか」が新しい勝負になるでしょう。

最後に

BMWの巨大キドニーグリルは単なる奇抜なデザインではなく、1933年から続くブランドアイコンを現代的に強調した結果です。4シリーズや7シリーズで大胆に大型化したことで賛否を呼びましたが、遠くからでもBMWと認識できる強烈な個性を獲得しました。また、EV時代にはグリルが冷却口からセンサーや発光演出を担う“ブランドの顔”へ変化しています。今後はサイズ競争ではなく、ライトやデジタル技術との融合が中心になるでしょう。好みが分かれても記憶に残ることこそ、BMWのデザイン戦略の強さといえます。

要点

  • BMWの“豚鼻”と呼ばれるデザインの正体は、1933年のBMW 303から続く「キドニーグリル」です。近年は4シリーズや7シリーズなどで大型化・縦長化し、単なる冷却口ではなく、BMWらしさを強く示すブランド記号としての役割が大きくなっています。
  • キドニーグリル大型化の背景には、BMWの存在感や高級感を強める狙いがあります。一方で「中国市場の好みだけが原因」と断定できる公式資料はなく、市場ごとの商品戦略とブランド識別性、電動化など複数の要因から考える必要があります。
  • EVでは大量の冷却空気を取り込む必要性が薄れ、グリル内部へカメラやセンサーを配置したり、外周を発光させたりする使い方が増えています。今後は単純な巨大化より、光・センサー・立体形状を組み合わせたBMW独自の“顔”へ進化していくと考えられます。

参考文献

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